★ 特報―夢見商店街、クリスマス撲滅同盟と和解す―之巻 ★
クリエイター唄(wped6501)
管理番号144-5802 オファー日2008-12-12(金) 18:29
オファーPC 清本 橋三(cspb8275) ムービースター 男 40歳 用心棒
<ノベル>

 夢見商店街に一本、モミの木が植えられる事になったのはここ最近の話だ。
 日本という多神教の国において、クリスマスなどという一神教の祭りが流行り出したのは実際何時頃の事なのであろう。そんな問いにすら答えられぬ程、日本人にとって十二月二十五日の行事は当たり前になっている。
「いやあ、これでここも少しは流行るでしょうかねぇ……」
 ベージュ色をした商店街の中央に植えられ、堂々としたモミの木はそれでもあまり映えはしない。
「チラシも頑張りましたからね! ホラお隣の黒田クリニックの娘さんでしたっけ? あの子が絵描きさん目指してるからって!」
 口元を覆いながら笑顔を返す、少しばかりふくよか過ぎる中年女性はこの商店街のクリスマスが成功するものだと信じて疑わないようだ。
「だといいねぇ、最近は倒産しちまったトコも多いだろう? 二丁目の堀越さんなんて酷いもんだったさ」
 モミの木を固定位置に立たせ、イルミネーションを片手に細い中年男性数人は頷き合う。額には汗が溜まり、冬という気候すら忘れてしまいそうであったが時折、吹く風に数人が震え、肩を抱いた。

 昭和ないし、一昔前の暖かな市場を思わせる商店街は所々に古傷を残しながら銀幕市でひっそりと生きている。創業数十年、古株ではざっと百年は超えるだろうか。一時は客でごった返しになっていた商店街に今、客は殆ど居ない。モミの木付近に居る中高年の男女は全員皆、とある企画の参加者としてこの場に集っている。
 庶民ですら札束を喜んで手放したバブルの絶頂、店舗が押し寄せ銀幕市も進化してゆくにつれて成長していった商店街。隣同士近付き合いが出来る程度には仲の良い、この場所は今、存亡の危機にあった。映画からの実体化を果たしたムービースター、夢の化身であるバッキーが銀幕市を騒がせ、良い意味でも悪い意味でも賑わい出した同じ市内だというのに観光客の一人も来ない。そんな、夢見商店街に『クリスマス企画』が上がったのは一年前の事だ。
 企画、大きな言葉を使っても結局、商店街の中央に大きなモミの木を植え、イルミネーションで飾る。という、本来はたったそれだけの企画ではあるがこれには十分意味がある。

「なあ、おまえ。 今年もいい夫婦(めおと)が出来るかねぇ?」
「やだ! あんたったら! 今は『かっぽぉー』っていうのよ!」
 恥ずかしい、と大げさに訂正した中年女性は細い中年男性の背中を凶暴なまでに太い腕で文字通り、殴った。咳き込むご主人に対して妻はなんと強いのだろう。雨風、嵐でも立っていられそうな風貌には厳格さすら漂う。
「そうねぇ、去年の宣伝効果もあるでしょ? だから市内全員の若い子が狙ってくれてるわよォ!」
 お年を召した女性という物はあらゆる事柄に対して、強い。夫の不安をよそに、テンションの上がる女性陣は彼女達の仕事を始めだす。
「市内中の若い子かぁ……。 ――どうだい? 三田さん、来ると思うかい?」
 反比例して、お年を召した男性というのは得てして枯れた小枝のように、モミの木へ安いイルミネーションをつける作業を続けた。

 『夢見商店街クリスマス』安易ではあるがこれがこの場所の最終兵器になる。いや、なって欲しい。
 当初は、もう夢さえ無くなった商店街の全員で最後のクリスマスを。そんな意味で貧相なモミの木を飾ったのが始まりで、今年に入り『夢見』は無くなる筈であった。それが、偶然数十年ぶりに再会した恋人や、映画の中から出た客人達の、これまた偶然の来訪で何故かこの商店街のモミの木の下で出会うニュースが多かった事が原因となり『恋する夢見』の名が付き、今年まで多少生き永らえたのが現状である。
 そうして、受けた仕事ならば繁盛させるのが商売人だ。生き残りのチャンスをかけた『クリスマス企画』に夢見商店街の住人達は、二十四日と二十五日に全てをかけていた。

「ちょ、ちょっとぉーーーー! あんたぁ!」
 自分達の仕事へ向かった女性の一人が象のような音を立てながら突進してくる。猛獣が来た。こういう時、夫という生き物は非常に面倒な顔をしながら、その実酷く内心怯えながら返事をする。
「こねぇさ。 まぁ、せいぜいクリニックの娘さんが上手く宣伝してくれりゃ……。 あー、五月蝿いぞおまえ」
「うるさいって何よ!! あんたこそちゃんと手動かしなさいよ、このボンクラ!! ねぇ、二宮さんッ! ちょっと見てよこれッ!!」
 女の金切り声には数十年経っても慣れない。夢見商店街のラーメン三田主人は脚立から滑り落ちそうになりながら妻の手より小さい紙切れを眺めるなり、本当に滑り落ちてしまった。

「やだ! ちょっとあんた! あんたぁぁぁあああ!」
「おい、三田ラーメン大丈夫かッ!」
「病院ッ! あ、でも二宮さんこれも! ああ、本当男共って役立たずばかりねぇ!!」

 ボンクラとも、濡れ落ち葉ともよく言われたものだ。若い頃の妻は美人ではなかったものの、従順で恥じらいを知った大和撫子だと感心していたのに。フェードアウトしながら悲しい男の哀愁に浸る、三田ラーメンの主人はこの後病院に運ばれた後に大声でモミの木を守れという、走馬灯とは全く関係の無い言葉を叫んだという。

 三田ラーメンの奥様の手よりも小さなメモ――ではなく、手紙にはたった一言。
 ――ツリーを切ってやる。
 非情とも言える脅迫が載っていたのだから。


■報―夢見商店街にて襲撃予告―


 十月の初めには派手な橙色をした面妖な南瓜が並んでいたのは記憶に新しい。それが十一月になった途端消え、聖林通りから銀幕市の至る所でモミの木が多く植えられるようになっていった。
「はろうぃんも珍妙な祭りだったが……今年もくりすますとやらが来るのか」
 雪村一家、室内を一本に繋ぐ廊下を歩みながら清本橋三は何やら居ても経ってもいられぬと言った風に口を動かす。
「おいら達にゃ意味なんざぁさっぱりな行事っしたけどねぇー。 今年も買ってくるんですかい?」
 一歩下がった位置を歩むロクは『コレ』と小指ではなく、両腕で大きな丸を作ってみせる。確認し、強面をくしゃくしゃにして清本は機嫌良く答える。
「はろうぃんの『きゃんでー』やら『ちよこれいと』も良かったが、くりすますに食う『けぇき』は格別だからな」
 この時期、ロクが使う大きな丸の合図は『クリスマスのケーキをホール買い』のサインだ。彼は実家が洋菓子店であるというだけあり、銀幕市のあらゆる洋菓子には強い。
 任侠集団にはおおよそ似つかわしくない愛らしいケーキなどは今まであまり公の場で話題にする事は無かったが、清本が実体化し雪村一家に客分格になってからというもの、むさ苦しい男達の間ではクッキーだのケーキだの、そんな単語が頻繁に飛び交うようになっている。
「しかし、矢張り今年も俺一人で買いに行かねばいかんだろうか……」
 ふと、思い出したように清本は足を止める。視線は宙を漂い、何か良くない事柄の前兆を予感する様はいつも目にする『斬られ役の清本』の姿ではない。
「そいつぁ……。 お願いしますせんせぇー……、この時期じゃあ、あにきは……」
 ロクも情けない声を出すが、それはいつもの事だ。体格の良い身体を縮こまらせ、上目遣いで清本を見る視線は見目こそ良くなかったが彼は本気で困っている。

 十二月上旬。この頃になると日本人として年越しの準備をしなければいけない。雪村一家も例に漏れず準備を始め、若頭代理補佐であるサブローは忙殺される勢いで働く。勿論、その間の癒しとなるのは時代劇、ないし斬られ役清本橋三が一分一秒でも多く映し出される映画のみだ。
 迎えた十二月中旬。あらかた済んだ年越し準備も大詰めだ。むやみやたらと休みたがる一家の者を叩き起こし、下旬から正月にかけての最終決戦へ挑む。
 しかし、この頃からサブローはまれに遠くを見つめている時間も多くなった。いつものようにビデオテープという一昔前の遺産を眺めても、彼の心は何処か寂しさを訴える。

「クリスマスなんざぁ、俺らにゃ関係ねぇさ……」
 正月もあと一息となった十二月下旬。一人きりになった茶の間、あと数刻で舎弟が今年のクリスマスにはどのケーキが良いか打診に来るだろう。これは清本が居なければ無かった習慣であり、今まで特に避けていたわけでなくともなんとなしに男心をくすぐる行事でもあった。
「俺ら……。 ――俺にゃ関係ねぇ。 先生が、先生の」
 ブツブツと言葉を漏らす先にはロープ一つ括りつけ、もっとその先に窓が見える。覗くのは美しいイルミネーション、銀幕市という祭り好きな市が飾り付けた――もしかしたら大規模なムービーハザードの類なのかもしれないが――大きすぎるモミの木。

 ――俺、先生のケーキ選んだら餅を食うんだ。
 頭で考えながら、サブローの意識はこれまでに無い程、暗い井戸の底へと降りていった。

「来年のしるこはもう少し多くても構わ……む、サブロー!?」
「あにきぃー、鏡餅どうしやしょー……ってあにきぃーーーー!?」
 廊下を渡り、茶の間へと入った清本とロクの声で一家にはまた、正月の準備よりも恐ろしい一騒動が起きる事となる。
 視界のど真ん中に映るのは、天井から荒縄を上手く使い、首に巻きつけているサブローの姿。
「とうとうやっちまったんですか、あにきぃーーーー!」
 しっかと結んだ荒縄に首を括ったサブローの姿に清本がすぐさま動き、命の危険から救い出し、ロクが医者の手配をする。彼女が欲しい。男なら誰もが感じる時期、それが今日である。毎回クリスマスの色が濃くなるにつれて男所帯というものはここまで酷くはなかろうとも、虚しさを感じるものなのだ。
 こうして始まった慌しい二十四日の昼、清本は一人でケーキを選びに外へ出る。手には大きな風呂敷とロクが書いたケーキ店の地図が装備品である。
(ロク、サブローを頼んだ)
 恋人が居ないという事実は何も悪いものでは無かったが、気にする者は気にするものなのだ。実体化し、クリスマスを知った後に雪村一家の間では密かにサブローを気遣ってクリスマスケーキを極力見せない――見せても既に切り分けたものと決めている――以前初めてのクリスマスで同じ行為をした為に、ロクは心臓が飛び出る思いをした事があるのだから。
 そうやってケーキよりは鏡餅の話と決めていた筈が、今年は偶然か必然かサブローの中ではこの時期はクリスマス、そしてクリスマスケーキからクリスマス、恋人達の集いと変換され、最後に行き着いたのは恋人の居ない自分だったようだ。

 悲しい独り身クリスマス。そんな細かい事情などは露知らず、清本は今年も首を捻りながらこれから出会うホールケーキに胸を躍らせ、銀幕市内を歩む。
(しかし……『くりすます』とやらは女子がおらんと成り立たぬものなのだろうか)
 違います、先生。以前真顔で聞けばロクはそう返してきたが、斬られ役とはいえ時代劇出身の清本にとってサブローのように、いっそ潔い行動はなんとなしに理解出来ても『むせび泣く男子』というものも珍しいのだ。

 ***

「そういやあ、この人どっかで見た感じがするんだが……誰だっけ?」
「あんた! またボケちまったのかい!? 斬られ役清本橋三だよ! 昨日のロードショーに出てたろう!? のっけから斬られちまったけどさぁ。 それに、銀幕市の清本先生といやぁ今子供らの間で人気じゃあないかい」
「ボケちゃいねぇよ! しかし子供らの間とは、意外なもんだねぇ……」
 夢見商店街南入り口。現在進行形で清本はそんな言葉を投げかけられながら、それ以上動けずに居た。悪党を見る目ではない、だからと言って君主を見る目でもない視線に後ずさりし、それでも品定めの視線を真っ向から受け止める。
 こうなる以前、聖林通りを一回りし、ロクの見繕ったケーキをあらかた受け取った清本は慣れない手つきで宅配の手続きを済ませ、最終目標である夢見商店街へと足を運んだ。そう、そこまではある意味いつも通りであったのだ。始めて来る商店街ではあったが、ここの目玉は二宮菓子店のツリーケーキであり、今年の新作だと聞いてもいた。

「あんた、腕は立つのかい?」
 暫くしてかけられた一言はすとん、と清本の心に浸透する響きであった。背丈からして上目遣いだというのに、中年女性の蓄えが厳格すら伺わせる。まさに『雇い主』の目である。
「立つとは言わん。 だが、報酬次第で考えよう」
 素直に一言、そう言った。中年女性は一般市民であろうし、困っていれば助けるのもまた構わない。だが、報酬と口をついて出てしまうのは心から用心棒であるが故の清本だからだ。
「だって、あんた。 頼んでよ! スターのお客さんで強そうな方ってここいらに居たかい?」
「おい、おまえ待ってくれよ。 報酬なんてウチで出せるわきゃ……」
「うちのラーメン券とか二宮ケーキのホールだってあるだろ! 欲しいの持ってって貰えばいいでしょ!」
 自分への報酬でもめるシーンも珍しい。自分で言っておいて今更いらないとも言えずに、清本は立ち尽くすしかない。
 『三田ラーメン』と書かれたエプロンの男女が数回言い合いをし、見た限りでは夫だろう「そんなもんで受けてくれるスターがどこにいるんだよ」と、なんともしょっぱい話を続ける。そんな二人が使う単語で、ようやく理解の出来る物が入って数秒迷い――夫婦喧嘩は犬も食わぬ――清本は外見に似合わず、おずおずと割って入る。
「『けぇき』が報酬ならば尽力させてもらうが」
 けぇき。ケーキだ。これは是と言う他無いだろう。本来なら買う筈のケーキが貰えるのならば喜んで、と清本の中ではそういう意でもあるのだが、争っていた当の二人は数秒「ケーキでいいのか」と、頭の中に浮ぶ疑問符のようなものと戦っているようであった。

「いいなら……」
「いいんじゃないかしらねぇ?」
 かっきり三分間、悩んだ三田ラーメン夫妻はこうして清本に夢見商店街『クリスマス計画』の要を守り抜いてもらう大切な任務を任せたのである。
 時刻は夕方にさしかかった午後三時、いつも人気の無い夢見商店街にはツリーと、何より何処からか漏れた『ツリー阻止計画』を一目見ようと人だかりが出来ていた。

 ***

 数時間後、矢張り『クリスマス撲滅同盟』なる旗を掲げた若者――若くない者も多少は混じっている――集団が商店街の入り口に押し寄せていた。野次馬は入り口よりも商店街側で、ただ『撲滅同盟』の者達をなじる物も居たが、「かわいそう」などと声を上げて笑う女性集団も居る。
「うるせぇっ! お前らクリスマスだからって浮かれ過ぎてんだよッ! おい、お前もだオッサン、その歳で彼女待ちか知らねぇが。 俺……俺らはなぁ……そんな浮かれきった日本国市民に天誅下すのが使命なんだこの野郎ッ!」
 大声で喚き散らす様子は清本よりは笑う女性の集団へと向けられているようで、彼らのリーダーらしき覆面の男へ向かい合った清本はツリーを背にした、所謂『いい歳こいて彼女待ちのチョイ悪親父』とでもとられたらしい。
 どちらにせよ、清本の理解とは程遠い世界が繰り広げられてはいるが。
「お前ら、それで恥を感じぬのか」
 清本は第一声に、胃の底から沸き上がる感情を押しとどめるが如く低い唸りで相手を威嚇した。『彼女』という役職の『女子』が『くりすます』には必要なのか、それは分からなかったが、モミの木もまた命、守るべきものだ。

「感じねぇな! 無駄に幸せそうにしやがって……せめて一太刀! いや、天誅をッ!」
 吠える連中は皆、『クリスマス撲滅同盟』のリーダーであり集団の中にあっても一個人で居るようだ。均一のとれないコスチューム、ないし普段着の若者達は手前に出ている物の後ろへ隠れ、それでも木刀やバットの類を振りながら一様に「カップルが憎ぅぅい!」と連呼している。
 明らかに天誅よりは私情から来る私刑であろう、が。もう一度、と足を踏み出した覆面の男は涙ながらにも訴えたのだ。
「お前にも分かるだろう、脇役で悪役。 なぁ、斬られの清本先生よォ! この寂しさ。 彼女が出来るまであんただって味わってきただろォ!」
 涙、いや血涙だろう。覆面の男はバッドを抱きしめながらも訴える。ちゃっかりと、清本が『彼女持ち』という妄想だけは根に持っているようだが。

「主らの言う言葉、わらからぬ事もなし……」

 静かに、言い放った清本に商店街から断末魔とも言える熟女の方々から悲鳴が上がった。清本は元が悪役だ、寝返ってもおかしくは無いという解釈か。わかりきった事実を受け止めながら、けれど『彼女』という位置づけに対する考えは分からないまま、言葉を続けた。

「しかしながら悪役とは、脇役とは、主人公を引き立てるなんとも潔い人生だとは思わぬか? 刹那に散っても一つの命、『えいが』なるもので生まれようとも俺もまた命、人生を歩んでいる」

 一言一言を口にする清本はただツリーの前に立っているだけであった。斬りあいも、争いも無い、『撲滅同盟』との間で刀も抜かずにただ、口を開いた。
 商店街の誰一人言葉を発さずに居る中、野次馬の子供が一人、覆面の男へ向かい「超級レスリングのブラックライダーだ!」と叫ぶ。すぐに、母親らしい人物が口を塞いだが『ブラックライダー』は視線を彷徨わせると気まずそうに舌打ちをする。
 そうだ、誰が見ても明白な態度は、彼もまた脇役として散ったムービースターである事実を物語っていた。

「なぁ、お前さん。 俺は『えいが』の中で一度は散る命のようだ。 しかしな、そんな俺とて、ここでは別の人生を歩むだろう。 どうだ、人生とはまるで『えいが』のようなもの。 ただの脇役であることを不服とし足掻いた者だけが、その『えいが』の主役に成るのだぞ」

 沈黙。広がっていたのはカップルの甲高い声でも、商店街の活気でも、ましてや『撲滅同盟』の怒鳴り声でもなかった。静寂が広がる中、武器を取った若者達は腕を下ろし、立っている事すらもままならぬと崩れ落ちている。
「お、俺達もいつか主役になれるだろうか……ッ?」
 搾り出す声のなんと切羽詰った色か。皆と同じように崩れ落ち、拳に涙を落とすブラックライダーは清本へ向かい悲痛な叫びを上げた。
 彼の正体を明かした子供が、小さいながらも慰めにとごわごわした頭を撫でつけに来る。

「無心で挑めば、あるいは……な」

 勝利だ。夢見商店街からは歓声が上がり、野次馬は一同呆然としつつも平穏無事に納まったのだと口々に音を出し始めた。しかしその場に、敗者は必要なのだろうか。
「おい。 そこのお前さんら」
 ふと、思い立って野次馬の一角に清本は声をかける。
 今まで散々『撲滅同盟』を笑っていた女集団が顔を見合わせ、「何よ」と顔を赤らめながらこちらへ向かってきた。自分の言動でも恥じたのだろうか、こうして見てみると皆女子であり、愛らしい。
「すまんが、こやつらと茶でも飲んでやってくれんか」
 軽く笑いかけた清本に、女達は一度唖然としていたようではあった。が、『撲滅同盟』を眺めた後に。
「ま、気が向いたらねッ!」
 一人の女が言えば他の女性も同じ返事をした。女とは得てして群れで動くものなのだ。ぶっきらぼうに返したわりには既に『撲滅同盟』に手を差し伸べる者も居る。
 一件落着とばかりに、語られる後日談。この集団が合コンへと発展し、数組のカップルを生み出したのは別の話となるだろう。

「あ、あの……! 一緒にどうですか?」
 野次馬から飛び出るように出てきた女は、清本へぶつかる勢いでそう言った。
 白衣のネームプレートには黒田クリニック『黒田陽子』と書かれている。商店街の者かと思えば、この者もまた幸せになれば良いと清本は思う。
「すまん。 俺は……家族が待っておるのでな」
 風のように解決し、風のように去る。是、時代の風の如く。
 二宮菓子店と書かれたクリスマスケーキを受け取った清本は、惜しまれながらも颯爽と旋風の中を去ってゆく。夢見商店街、彼らには彼らの輪と、紡いでゆく物語があると確信しながら。

 ***

 さて、この粋な清本の行動はクリスマス当日、小さな記事ではあったが銀幕ジャーナルの紙面を飾る事となる。
 夢見商店街の『クリスマス企画』は成功し、当分は生き残ってゆけるという物。『撲滅同盟』の若者でこの商店街に就職したというニュースまでが取り上げられていた。
「いやあ、どんな調子だったんですかい? 先生」
 サブローは上機嫌で清本に事件の様子を聞いてくる。
 雪村一家、茶の間。取り分けられたケーキを食しながら、いつもの面子で食す『けぇき』は矢張り美味しい。
「そのまんまの顛末よ。 しかし、サブロー……」
「なんですか? 先生」
 人の人生色々。と、事件を語ろうとしない清本であったが、あれだけクリスマスに思い悩んだ強面のサブローが、今では憑き物が落ちた様子でケーキを貪っているのだから、おかしな話だ。

 敬愛する清本橋三に目を丸くして見られ、舎弟にまでも怪訝な様子で眺められるサブローの真実は。

 十二月二十五日朝、銀幕ジャーナル。清本の記事を病院で眺める事になったサブローが「先生の記事なら」と詳しく話を聞き、結局の所感銘を受けたというのは、これもまた別の話なのだろう。


終劇

クリエイターコメント清本橋三様

お久しぶりです、プラノベオファー有難う御座いました。唄です。
今回は時期物のギャグプラノベという事で、楽しく書かせて頂きました。
ご近所物のようにちょっと暖かな描写も出来ていればと思います。
これはしてはいけなかった、等御座いましたら申し訳御座いません。
またシナリオなりプラノベなりにてお会いできると嬉しいです。

唄 拝
公開日時2008-12-23(火) 14:10
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